理亞(お腹すいた……けど、ひとりでお店入るの怖いな……)
理亞(何か食べていきたいな……ひとりで入るのは怖いけど)
理亞(――いや。いつまでもそんなのじゃ駄目だ。私ももう、前までの私じゃない。ひとりでもやれる、はず)
理亞(よし。まずは姉様にお昼は要らないって連絡しよう。自分から退路を塞いで、覚悟を決めるんだ……!)
理亞(……この送信ボタンを押したら、もう後戻りは出来ない。……怖い。でも、成長した私を、姉様に見てもらうんだ!)
理亞(っ、えいっ……送信!!)
理亞(……やってしまった。でも、これで! ひとりでご飯を食べに行く! 途中下車は、もう出来ないっ!)
理亞(お店に、入るんだ――!)
理亞(飲食店と一口に言ったって多種多様。優先すべきは、お店への入り易さじゃない……何を食べることが出来る店か)
理亞(ここを間違えちゃいけない。ひとりで入店するのは大事な目標だけど、目的はお昼ご飯を食べること……これが大前提……!)
理亞(大切なのは自分の気持ちと腹具合……妥協の先に、満足な食事はないと考える……っ)
ピローン♪
理亞(――ん。姉様から返信だ。えっと)
『ひとりでご飯?大丈夫なの?』
理亞(姉様、心配してる……。そうだよね。私自身、いま、凄く不安だから。……でもっ)キッ
理亞(大丈夫だよ、姉様。私は今日、自分を乗り越える……その試練に、打ち勝つんだ!! ――送信!)
『頑張って、あなたを応援してる、あなたなら出来る! 必ず!』
『晩ご飯の時に理亞の武勇伝を語ってくれること、楽しみにしてるから!』
理亞(姉様……!)ジーン
理亞(頑張ろう。応援してくれる、姉様のためにも……!)
理亞(まずは何を食べるかだけど……私はスクールアイドルだ。遊びじゃない。身体が資本だし栄養バランスは大切)
理亞(さらに言えば、アイドルとしてのイメージも重要。ひとりで牛丼をもさもさ食べるのは、少し、いただけない)
理亞(なるべく優雅に。エレガントに。オシャンティーにいきたいところ……ジャンクな食事はNGだ。となると)
理亞(――カフェとか、どうだろう)
理亞(ランチタイムの真っただ中。街の喧騒から少し離れたカフェで、のんびりココアを飲みながらホットサンドで一息……)
理亞(うん、うんうん。それは、いいかもしれない。大人っぽい。超アイドル。カッコいい。姉様みたい。ルビィには真似できない)
理亞(今日のランチはオシャンティーなカフェでホットサンド。これで行こう……!)
理亞(どれどれ。ちょっとスマホで店舗の検索を、っと)
理亞(ここは地元だけど私はカフェのことは知らない。なぜなら、行ったことがないから――)
理亞(ふむふむ。んっ……この店、いいかも。この近くにあるみたい。……よし、行ってみよう)
理亞(きっとルビィも花丸も善子も、田舎娘はこんな店に入ったことないはず。……ふふ、私が一歩リード)
理亞(よし。いざ、勝負――!)
理亞(っ!? ま、待って。店内の様子……あれはっ)
理亞(店員さんと、お客さんが“談笑”してる……!?)
理亞(あれは、まさか――『常連』……!?)
理亞(よく見れば他のお客さんたちも、笑顔で話をしている2人の方を向いている……なんてこと)
理亞(このお店の客層は『常連』がメイン……! 一見さんはほとんど見かけることがないタイプ……っ!)
理亞(これは不味い。この店に私が入ると、どうしても――浮く! 浮いてしまう、完全に……!!)
理亞(常連ばかりの中に一見の客――異物以外の何物でもない! 店員にとっても『常連』にとっても!)
理亞(――着いた。なるほど、確かにこれはお洒落だ。こういうお店で優雅に食事っていいな……憧れる)
理亞(まあでも、これから私も優雅デビューだ。完全に仲間入り、完全にフルハウス)
理亞(きっとルビィも花丸も善子も、田舎娘はこんな店に入ったことないはず。……ふふ、私が一歩リード)
理亞(よし。いざ、勝負――!)
理亞(っ!? ま、待って。店内の様子……あれはっ)
理亞(店員さんと、お客さんが“談笑”してる……!?)
理亞(あれは、まさか――『常連』……!?)
理亞(よく見れば他のお客さんたちも、笑顔で話をしている2人の方を向いている……なんてこと)
理亞(このお店の客層は『常連』がメイン……! 一見さんはほとんど見かけることがないタイプ……っ!)
理亞(これは不味い。この店に私が入ると、どうしても――浮く! 浮いてしまう、完全に……!!)
理亞(常連ばかりの中に一見の客――異物以外の何物でもない! 店員にとっても『常連』にとっても!)
理亞(これがオシャンティーか。これが理想のカッコいい食事か! なんという恐怖っ、なんという戦慄っ!)
理亞(認めないといけない。今の私じゃあ――勝てない。この店には……っ!)
理亞(撤退する……今日のところは! でも、この敗走は無意味じゃあない。敵を知れた、それだけでも、価値はあった――!)
理亞(今はそう、信じよう……!)タッタッタッタ…
理亞(反省点がひとつ。個人経営の店はダメ。あれはハードルが高い、無理はよくない)
理亞(自分に合った目標を立てることが大切。無謀な挑戦を繰り返したって人は成長しないんだ……)
理亞(もう一度、店選びを始めよう。カフェって方針は決まってるんだから、選び直すのは難しくないはず)
理亞(例えば、この近くにだって喫茶店くらいは――)キョロキョロ
理亞(ん――あれは)
理亞(スターバックス、かぁ……。なるほど確かに、おしゃれ度は高い。けど)
理亞(注文する際に意味不明の呪文を唱える必要があるとか。何だっけ。ニンニクヤサイマシマシアブラカラメとか、そんなことを)
理亞(つまり、入店する人間はまず、試されることになる。――汝はこの店の掟を熟知する者か、と)
理亞(……その試練に合格できなかった場合はどうなるんだろう。いや、その類の結末は、だいたい相場が決まってる)
理亞(スフィンクスの問いに答えられなかった旅人のように。口裂け女の問いを不用意に返す町人のように)
理亞(待っているのは恐らく、死……!)
理亞(やめよう。スターバックスは危険。生存して、私は姉様のもとへ帰らないといけない……っ)
理亞(……マクドナルド)
理亞(……まぁ、うん。お洒落、とは言い難いけど。でも、女子高生がひとりで入る分には、普通)
理亞(いや。むしろすごく女子高生っぽいと言える気がする。スクールアイドルも等身大の女子高生だ。そう、私はJKだ)
理亞(マクドナルドで食事……うん。JKっぽい。リアルが充実してるJKっぽい。決して陰キャぼっちのイメージはない)
理亞(栄養バランスについては妥協しよう。ジャンクフードで何が悪い。だって私はJKだ。若さは不摂生を凌駕するんだ)
理亞(その場のノリでなんとなくマクドナルドでの食事――うん。こういうのも、アリだと思う……!)
理亞(決めた。今日のご飯はマクドナルド……! ドナルドが私を待っているんだっ、妥協じゃない!!)
理亞(よし。いざ――入店!)ウィーン
理亞(並んでる人はそれなりにいる。なら、今のうちに何を注文するか決めておこう……メニューの看板は、上か)
理亞(……メニュー、少ない、な)
理亞(セットメニューがいくつかあるだけ? あとは甘そうなドリンクと、サイドのお菓子……少ない)
理亞(おかしい。マクドナルド……世界最大手の外食チェーンの王者が、まさかこれっぽっちのメニューしか取り揃えてないなんて)
理亞(何かあるはずだ。私の知らない何かが……くっ、マクドナルド、やってくれる……! 私を試すつもり!?)
理亞(――いや、違う! こういう安さと回転で利益を上げる店なら、少ないメニューで勝負していてもおかしくないっ!)
理亞(この看板に掲げたメニューの少なさ、これは恐らくマクドナルドの経営戦略……! さすが、世界のマクドナルド!)
店員「――お待ちのお客様、お決まりでしたらどうぞー!」
理亞「!?」
理亞(なっ――もう私の前に、誰も並んでない……私が最前列だ!)
理亞(しまった。まだメニューを決めてないのに……こんなに早く呼ばれてしまうなんて予想してないっ!)
理亞(くっ。後ろにも人は並んでる、ここでモタついている訳にはいかない……っ!)
理亞(行くしか、無いんだ! 覚悟を決めろ鹿角理亞――!!)
理亞「……」スッ
店員「ご注文をどうぞー?」
理亞「え、っと……――うっ!?」
理亞(ば、馬鹿な――)
理亞(なんてこと。なんてことをするんだ、この店は……!)
理亞(メニュー、置いてある……注文カウンターに……っ!!)
理亞(酷い、酷すぎる! さっきの店員は確かにこう言ったのに――お決まりでしたらどうぞ、って!!)
理亞(それなのにメニューがあるのは注文カウンター……決まるわけ、ないでしょそんなの……!!)
理亞(この店は罠だ! 世界一の外食チェーンであることを鼻にかけて、誰でもメニューを知っていることを前提にしている……!)
理亞(初めてくる客のことを、馬鹿にして……っ!)
店員「……ご注文は?」
理亞「ぐっ……」
理亞(まずい、これはまずい……後ろに人がいる、注文カウンターは3つ。その中で私の後ろだけ、滞留してる……!?)
理亞(私がっ、行列を作ってしまっている……っ!!)
理亞(早く注文しないと! スムーズな注文の流れを断ち切るなんてこと、出来ない……っ!)
理亞「え、と。あーっと……」オロオロ
理亞(くぅぅぅ、このメニュー、見づらいよぉ……っ! 思ったより数が多いし、ごちゃごちゃしてる!)
理亞(何を頼めばいいの!? バーガーとサイドメニュー、ドリンク、サイズ……選ぶことが沢山ある!)
店員「あ、あの」
理亞(話しかけないで、うっとうしいっ! 今、私は、真剣に選んでるの……この店のメニューがカウンターにしかないせいでね!)
理亞(普通、先にメニューが見えるようにしておくでしょ、何なの!? うちの店のやり方が古いとでも言いたいの!?)
理亞(いや、そんなこと、今はいいっ。選ぶんだ、早く、注文を……!)
理亞(早く、早く早く早く早くぅ……)
理亞「……っ」
理亞(今、後ろから――舌打ちが聞こえた、ような) ※理亞ちゃんの気のせいです
理亞(後ろ……怖い。今、私の後ろには何人が並んでるの? 最前列は、どれくらい私の注文を待ってるの?)
理亞(私がこのカウンターに立ってから、どれくらいの時間が経ったの……?)
理亞(まずい。これ以上は本当にまずい。早くしないと、今すぐ決めないと! でも、何を? 何を注文すればいいの、私はっ!?)
理亞(注文を。早く。何を――!?)
理亞「ぅ、ぅぅぅぅ……っ」
店員「ど、どうされました……?」
理亞「――も、もういいです!」ダッ
店員「お、お客様!? ちょ、店内でムーンサルトはお辞めください、お客様ー!?」
理亞「私は、私は……満足にハンバーガーも注文できないの……! ラッキーピエロでなら出来るのに……っ!」
理亞「これが、世界の壁だと言うの!? ローカルチェーンとは比較にならないっ、なんて恐ろしい、マクドナルド……っ」
理亞「く、ぅぅぅ……っ」
理亞「……」くぅ~…
理亞「……おなか、すいた……」
理亞「どーこーへー。どーこーへー。つぎーはどこへ行こー……はぁ」
理亞「……どこへ行っても、きっとダメ。もう私には外食なんて出来ないんだ、どうせ……」
理亞「雰囲気のあるカフェなんて、夢のまた夢……――ん?」
理亞「カフェ……喫茶店……――お茶屋?」
理亞「あっ」
聖良「……いえ。きっと理亞なら大丈夫。無事に、成長して帰って来てくれるはず……私は信じて待てばいい」
聖良「さて。午後の店番も頑張りましょう――、」
カランカラン…
聖良「おっと。いらっしゃいま――っ、理亞!!」
理亞「……」
聖良「お帰りなさい、理亞! 大丈夫だった? 怪我はない?」
理亞「……」スッ
聖良「……?」
聖良(何で無言でテーブルに座ったんだろう……)
カランカラン…
聖良「あっ、お客さん。いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
理亞「……」ソワソワ
客1「ごちそうさま。お会計お願い」
聖良「はい。とうふ白玉パフェが1品で――、」
理亞「……」キョロキョロ
聖良「ありがとうございました、またのお越しを」ペコッ
客2「店員さん。注文良いですか?」
聖良「はい、ただいま!」
理亞「……」チラッ、チラッ
理亞「……」
理亞「……」
聖良「理亞? あなた、いつまでそこで座ってるの? 暇なら手伝ってくれてもいいのに」
理亞「……ぅ、ぅぅぅぅぅううっ」エグエグ
聖良「り、理亞っ!? え、ちょ……なんで泣いてるの?」
理亞「オ゛ム゛ラ゛イ゛ス゛と゛、く゛じら゛汁く゛だ゛さ゛い゛……ぃっ」
聖良「……はい?」
理亞「お゛昼゛、こ゛こ゛で食゛べる゛の゛……お゛客゛さ゛ん゛と゛し゛て゛……!」」
理亞「お゛金゛は゛払゛う゛か゛ら゛ぁ゛……」
聖良「いや、そうじゃなくて……」
理亞「ここが、このお店が一番お洒落なカフェだからっ。そうっ、それが理由! 別に逃げてきたわけじゃな゛い゛……!!」
聖良「お洒落な、カフェ? ……雰囲気のいい店だとは思うけど」
聖良「……よく分からないけど。かしこまりました、少々お待ちください……」
聖良「――はい、お待たせしました。オムライスとくじら汁です」
理亞「えぐっ、えぐっ。……い゛た゛だ゛き゛ま゛す゛」もしゃもしゃ
聖良(泣きながら食べてる……)
理亞「……」もぐ…
理亞(おいしい……っ。うん! 外食なんてしなくても、私にはこのお店があるから、いいんだ……!)ニッコリ
おしまい
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タイトル:理亞(お腹すいた……けど、ひとりでお店入るの怖いな……)
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