コタツ「コタツは日本の心です」男「自分で言うな」
女「じゃあ男君、また明日ね」
男「うん、気をつけて」
男(…最近、割と女さんといい感じ)
男(これは大学二年目にしてようやく春が来るか…!?)
男(でも、焦らない…人によるかもしれないけど、たぶん俺は焦るとロクな事にならない)
男(忘れもしない、高校の時──)
『──えっ? あ…ありがとう』
『あー、でも…ごめんね…勘違いさせちゃったのかな…』
『うん…男君の事、嫌いじゃないんだけどね』
『正直、一緒に遊んで楽しいお友達感覚だったんだ──』
男(…あかん、思い出しただけで泣ける)
男「はー、ただいまー」ガチャッ
男(……独り暮らしだけどね)
男(メシ…冷蔵庫、何があったっけ)カタッ
男(……何も無いって言った方が正しいな)
男(卵めしでいいか…)ヒョイ
男(ご飯よそってー)モリモリ
男(醤油と卵溶いてー)カチャカチャ
男(味の素ひと振りしてー)フリフリ
男(ご飯にタンパク質をブッかける!)ドロッ!
男(ご飯『らめえええぇぇぇ! 真っ白な私が茶色くなっちゃうううぅぅぅ!』ビクンビクンッ)
男(これから食う物に対して考える事じゃなかったな……)オエッ
…コトッ、カチャッ
バフッ、モソモソ…
男「いただきまーす」
男(もう4月だもんな…そろそろこのコタツも片付けなきゃ)モグモグ
男(TVもつまらないんだし、食ったらやろう)
男(そして女さんを部屋に招いた時の事を考えて、二人掛けのローソファーを…!)
男(…まずは買わなきゃな)モグモグ…
男(まだ多少はどたばたしても、迷惑なほどの時間じゃないし)
男「さらばだ…コタツ、また晩秋に会おう」ウルッ
男(まずは天板を外さなきゃ……おらっ! 大人しくしろよっ!)ガバッ
『ひゃっ』
男(へっへっへ……そのコタツ布団の下はどうなってるのかな…? ひん剥いてやるぜぇっ!)バサァッ
『きゃあああぁぁっ!』
男(おいおい…真ん中が熱くなってんじゃねえか、とんだ淫乱だぜ…! その脚、よけてみろよっ!)ガシッ
「やぁっ! 乱暴しないで……!」
?「だめぇっ…脚をグリグリしちゃ…!」
男(ん…? コタツの脚って、柔らかい材質だったっけ?)
?「男さんっ、お願い…優しくして……」
男「誰だ!?お前はああああぁぁぁっ!」
?「そんな…っ! 誰かも解らずにこんな格好をさせたんですかっ」
男(なんで俺はいつの間にか美少女の素足を掴んでグリグリしてるんだ…!)
男(ましてやこの娘…! 上やパンツはともかく、スカート履いてないじゃねえかっ!)
男(俺はその片足を持ち上げて…彼女は床に半身で倒れてて…)
?「…あんまり…見ないで……」ウルッ
男「これ、理性が弾けてもいいですか」プシュー
?「あ…あの…だったら手を放してもらっても…?」
男「ああ…ごめんっ」パッ
?「はわわ…っ」ササッ
男「あの、何か下半身を隠すものを…あ、とりあえずコタツ布団でもっ!」
?「ありがとう……って、これ私のなんですけどね」マキマキ
男「はい?」
?「私、コタツです。この部屋の」
男「……ご冗談を」
コタツ「本当ですよ、コタツ…無くなってるでしょ?」
男(外した天板だけは壁に立てかけたままだけど…)
男「…あれ? コタツ布団が」
コタツ「だから『私のです』って言ったじゃないですか」
男(さっき彼女が腰に巻いたコタツ布団が、いつの間にか普通のスカートになってる…! 柄はコタツ布団と同じだ…)
男「まさか…本当に、コタツなのか」
コタツ「はい」ニッコリ
男「夢でも見てんのか、俺は…」
コタツ「いいえ、現実だと思いますよ」
コタツ「それですっ!」ビシィッ
男「はい?」
コタツ「男さん、私を片付けようとしたでしょう」ジロッ
男「ええ…まあ…春ですし」
コタツ「また去年みたいに押入れで半年以上も過ごすなんて、絶対に嫌です!」
男「そう言われても、コタツは季節モノだよ」
コタツ「でもでも、コタツ布団さえ外せば普通の卓袱台として使えるんです
よっ!?」
男「そりゃまあ、使えなくはないけど…」
コタツ「コタツは日本のココロですっ!」
男「君がそうやって意識を持ってるって事は、ガラステーブルも押入れで辛い想いをしてるんじゃないの?」
コタツ「ハッ…この国にはまだガラステーブルが神化するような歴史はありませんよ」ヤレヤレ
男(ものっそい見下した目したな…)
コタツ「日本の部屋にはコタツ! それはもはや日本人の本能です。男さんは生粋の日本人でしょう?」
男「はあ…」
コタツ「じゃあ、使いましょう。エブリデイ!オールシーズン!グッドコタツライフ!」
コタツ「…戻れないんですよね、コレが」
男「はい?」
コタツ「いや、戻れるには戻れるんですけどね? …寝てる間だけなんですよね」
男「誰が?」
コタツ「私が」
男「……じゃあ寝ろよ」
コタツ「貴方、さっき目覚めたばかりで『また寝ろ』って言われて寝られます?」
男「無理です」
コタツ「ですよねー」ニッコリ
男「……ですよねー」イラッ
コタツ「はい。今が夜の8時くらいですから、明日の朝くらいには普通に眠たくなって、また夕方か夜に起きると思います」
男「それ、つまり俺が部屋にいない時間帯だけコタツ状態に戻るって事だよね」
コタツ「……そういえばそうですね」
男「よし、押入れ行こうか」ニッコリ
コタツ「待って! 毎日少しずつ寝る時間ずらしてくからっ! あの押入れGが出るんですよぅっ!」
男「…全く、時間をずらした後はいいにしても、しばらくはどうやってメシ食えばいいんだよ」
コタツ「あ、そこはご心配なく」
男「え?」
男「…四つん這いになった女の子に天板載せろってのか」
コタツ「大丈夫、もともとそういう作りですから、へっちゃらです」
男「まじか…じゃあ、載せるよ?」ソーッ
…トスッ
コタツ「うん、ジャストフィット」
男「めっちゃハミ出してるんだけど」
コタツ「大丈夫、絶対に落ちませんよ。どうぞご利用下さい」
男「じゃあ、缶ビールでも飲むか…」プシッ
コタツ「はい? そりゃ…コタツですから。お一人なら足を伸ばして、どうぞ」
男「四つん這いの女の子の下に足を通すのか…」
コタツ「お気になさらず、ささ…ぐいっと」
男「よっ…と」ズズイッ
…プルンッ
コタツ「ひゃっ…」ピクン
男「はい?」
コタツ「男さんのエッチ……さっき爪先で胸の先っぽ、弾いたでしょ…」ジトー
男(……やっぱ押入れ行きかな、こいつ)
TV《ナンデヤネーン!アハハハハ…》
コタツ「ぷっ…」クスクス
男(つまみ…味ごのみ食うか)バリッ
ポリポリ…
TV《モウ キミ トハ ヤッテラレンワー!》
男(……つまんな)グビグビ
コタツ「あー、終わっちゃった…」
男「………」チラッ
コタツ「どうされました?」ニコッ
男「全然落ち着きません」
男「とりあえずビールも飲み終えたから、人間コタツモード解除な」
コタツ「はい……よいしょっと」
男「もはや『そんなランドセル風のベルト無かったろ』とは言わないけど、天板は背負ったままなの?」
コタツ「言ってるじゃないですか、まあ…これが基本形態ですよ?」
男「…亀みたいなのな」ボソッ
コタツ「失礼なっ! 私はコタツですっ! 今の発言、訴訟モノですよ!?」
男「お前の怒りのツボが解らねーよ」
…
男「さて…寝酒も入ったし、寝るかね」
コタツ「おやすみなさい」
男「……君は?」
コタツ「まだ全然眠くないです」
男「だろうな……ま、寝る時は完全コタツ形態になるんだろ?」
コタツ「なる事もできます」
男「っていうか、なってくれ。さすがに女の子の姿のままでスヤスヤは俺の理性がもたない」
コタツ「私は家電ですよ?」
男「家電の姿をしてないだろ、とにかく寝る時は元の姿で頼む。その方が寝具も要らないだろうしな」
コタツ「わかりました、でも眠くなるまで起きてていいですか?」
男「お好きに、TVもヘッドホン使って観てたらいいから」
コタツ「はーい」
…
男(…とは言ったものの、全然寝付けない)
男(目を閉じると、この娘が現れた時の艶姿を思い出してしまう)
男(いかん…俺は女さん一筋の筈だ)
男(今…俺の横でTVを観てる、こいつは家電だ!)
男(しかもホームセンターで買った安物のコタツだ!)
男(コタツに欲情する奴がどこにいるってんだ!)
…チラッ
コタツ「………」ニコニコ
男(…ただの天板背負った女の子だよなぁ──)
………
…
…翌朝
コタツ「ふぁ……おはようございまーす」
男「やっぱ、いるんだな…」
コタツ「そりゃいますよ、貴方の持ち物ですもん」
男(女の子が俺の所有物とか…)ムラッ
コタツ「ふあぁ……ぁ」
男「…なんで眠そうなんだ?」
コタツ「えっ?」
男「まさか寝てないのか? 少しずつ寝る時間をずらすために、早めに寝る努力は?」
コタツ「……てへっ」
男「お前、ずっとTV観てたな。通販番組くらいしかあるまいに」
コタツ「けっこう面白かったですよー? あのわざとらしい日本語吹き替えが…」
男「押入れが好きなようだな」
コタツ「許して下さい、今夜から早寝します」
…
男「じゃあ、俺は行ってくるから」
コタツ「はーい、行ってらっしゃーい」
男「どうせ眠いんだろ。誰か来ても出るなよ? コタツの姿で寝とけ」
コタツ「言われるまでも無き事」キリッ
男「なんか腹立つわ…」
………
…
男「女さん、おはよう」
女「あっ…おはよう、男くん」
女「今度のプレゼン実習の原稿とか、進んでる?」
男「全然…ごめんね、せっかくペア組んでくれたのに」
女「それが私も全然なの、もうあんまり猶予は無いのにねー」
男「何とかしなきゃな」
…
女「──それでね、結局その日は買うのやめたの。でも次の週に行ったらもう売れててね」
男(…あの娘、ちゃんとコタツ状態になってるのかなー)
女「やっぱり買っとけば良かったなーって、かなり悔やんでる」
男(余計な家捜しとかしてなきゃいいんだけどな…)
女「しかも後からネットの通販見たけど、送料考えたらその時に買っとく方が安かったんだよ」
男(そんなに疚しいものは無いけど…健康な男子の持ち物くらい、いくらかはあるぞ)
女「後悔先に立たずだよー、ほんと」
男(そうは言っても、昨夜も今朝もあの娘が起きてたから隠す事も出来なかったもんなー)
女「…男くん?」
男(テレビ台の引き出しだろ…? それから本棚の上……げげっ、そういえば脱衣所のタオル棚にオナホがあるぞっ)
女「………」
男(鏡台の開き戸の中にはローションも立ててるし……でも、コタツにはそれが何か解んないか──)
女「…男くん、つまらない?」
男「えっ」
女「なんか、返事もしないし…ボーッとしてるよね」
男(しまった、考え事に集中しすぎだ…こりゃマズイ)
男「お…? う、うん…そうなんだ。ごめん、ちょっと意識飛びそうになってた」
女「もう…あんまり興味無さそうにしてたら、不安になるじゃない」
男「…不安?」
女「んー、話…つまんなかったかなーって」
男「そんな事ないっ! ごめん、俺が悪かったよ!」
女「仕方ない、今回は許してあげよう…その代わり」
男「その代わり…?」
女「今度、男くんの部屋で一緒に原稿を作ろうよ。招待…してくれるかな?」
男「えっ!?」
男「そ…そんな事ないっ! 全然、ウェルカムだよ!」
女「よーし、約束ね? じゃあ午後の講義始まるから、行こう」
男「…おう」
男(…とは言ったものの、まさか部屋に女の子がいるとは言えないし)
男(いや、家電だけどさ)
男(とりあえずその時、あの娘には寝といてもらわないとな──)
………
…
男「…ただいまー」ガチャッ
コタツ「あっ、おかえりなさーい」
男「………」
コタツ「あれ、どうしたんですか?」
男「…『ただいま』に対して『おかえり』が返る事に、ちょっと感動してた」
コタツ「あはは…それは良かったです。人型を見せた甲斐がありました」
男「その代わり、家具としての利便性は落ちたけどな」
コタツ「ひどっ!」
コタツ「はーい、ごゆっくりー」
…パタンッ
シャアアアアァァァァァ…
男(…様子に変なところは無い)
男(エログッズは見つかってはいない…か)
男(まあ…でも、やっぱり部屋に独りぼっちじゃないってのは)
男(悪くはない…な)
男「ふう、さっぱりした」ゴシゴシ…
男「さて…と」
男「………」
男( 着 替 え が 部 屋 だ ! )
男(しし…しまった、いつもの癖で)オロオロ
男(独り暮らしだから何を気にする事も無く、身体拭いたら素っ裸で部屋に戻っ
てたもんな…)
男(仕方ねえ…部屋干しの中から持ってきてもらおう)
男「おーい、コタツー」
コタツ「ん? 呼びましたー? …どうしたんですか、そんなドアの隙間から覗い
て。ちょっと怖い…」
男「着替え持ってくんの忘れたんだよ…悪いけど、部屋干ししてる中から取って
くれないか」
コタツ「あはは…独り暮らしの癖ですねー。よいしょ…っと」
…ピーン
コタツ「……ごめんなさい、無理です」
男「え、なんで?」
コタツ「部屋干ししてる窓際まで、コードが届きません…」
コタツ「はい…人間で言えば尾てい骨のあるところから、尻尾みたいに…」
男「…抜けばいいんじゃないの?」
コタツ「それが…このコードって、男さんがコンセントに挿したでしょう?」
男「そりゃまあ」
コタツ「私、あくまで男さんの持ち物だから…持ち主の意思によって決定された状態を変える事はできないんです」
男「…まじか」
コタツ「あの、私…後ろを向いておきますからっ」
男「えっ」
コタツ「見ないから…どうぞ、出てきて下さい」
男(それしかないのか…)
コタツ「いいですよー」
男「えーと…絶対だよ?」
コタツ「はい」
男「念のため、手で顔を覆っといてね?」
男(そーっと、そーっと…って、なんで忍び足の必要があんだよ)
コタツ「………」
男(後ろを向いてるとはいえ、女の子の傍を全裸で…)
コタツ「………」
男(いかん、状況に対して生理反応が起きているっ!)
コタツ「………」
男(落ち着け! 俺! 主張するな!)
コタツ「………」
男(OK、とりあえずパンツとノースリーブは確保…! さあ、どうする…ここで着るか)
コタツ「………」
男(しかし、着てすんだら彼女に目隠し解除を言い渡さなければならない。下半身の主張ぶりを考えれば、それはマズイ)
コタツ「…まだ、ですか?」
男「まだっ!」
コタツ「………」
男(何しろパジャマ代わりのスウェットは、彼女のいる近くの棚の中だ…。これだけ主張していればバレない訳がない)
コタツ「………」
ヒタ、ヒタ…
コタツ「………」チラッ
男「見た! 今、見ただろ!」
コタツ「み、見てませんっ!」
男「嘘つけっ! パンツ履いてたから良かったものの…!」
コタツ「嘘! 履いてなかったじゃないですかっ! …あっ!」
男「やっぱ見てんじゃねーか!」
コタツ「チラッとですよ! チラッと! 小さいからハッキリは見てません!」
男「お前は今、押入れ行きが確定した」
…
コタツ「ごめんなさいってば」
男「もういい」
コタツ「大丈夫、けっこう大きかったですよっ」
男「うるせえ、どうせ平均以下だよ」
コタツ「もう…あんまり気にしないで下さいよ。今までも私の目の前で裸になってたじゃないですか」
男「えっ! 見てたのか!?」
コタツ「あっ!」
男「何、やっちまったって顔してんだよ! じゃあ、お前…今までの俺の自家発電シーンとかも…!」
コタツ「…だ、だって男さん、私に入ったままするんですもん!」
男「挿入ったままとか言うなっ!」
コタツ「そういう意味じゃないですよっ!」アセアセッ
男(今まで俺はこの娘に見せつけながら、それを使用してたのかよ…)
男「なあ、コタツ」
コタツ「はい…?」
男「全部、忘れてくれ」
コタツ「ああ……はい、忘れました」
男「それらの事に触れる発言したら、本当に押入れ行きな?」
コタツ「わ、解りましたよぅ…」
コタツ「わーい」ニコニコ
男「え? お前…食べるの?」
コタツ「いいえ、コタツを使って貰えるなーって思って」
男「…それって嬉しいのか?」
コタツ「そりゃそうですよ! そのために生まれてきたんですから!」
男「正直、四つん這いの女の子の背中でメシ食うなんて、気が引けるもいいとこなんだけど」
コタツ「ダメッ! 私というものがありながら床でご飯食べるとか、侮辱です!」
男「うーん…」
男「結局こうなるのか…」
コタツ「遠慮は無用です、置いて置いてっ!」
コトッ、コトン…
男「じゃあ…気にはせずに、頂きます」
コタツ「今日は卵ご飯よりはマシですね」
男「一応、惣菜とか買ってきた」モグモグ
コタツ「野菜が少ないんじゃないですか?」
男「なんで天板の上が見えるんだよ」
コタツ「予想しただけですけど、当たりだったみたいですね」クスクス
コタツ「コタツ布団に足が入ってないですもんね…」
男「だったら、もうコンセント抜いとこうか? その方が自由きくだろ」
コタツ「うーん…それもあんまり嬉しくはないです」
男「なんで?」ゴキュゴキュ
コタツ「やっぱり私はコタツとして使われるために生まれてきたわけで…ただのテーブルに成り下がるのは複雑です」
男「でもこれからの時期はどうしてもコタツとしての利用はできなくなるぞ?」プハーッ
コタツ「それは仕方ないんですよ、逆にそうだからこそ冬の風物詩的なポジションでもあるんですから」
男「それでもコンセントは抜かない方がいいのか…ヘンなの」
…
男「さて、メシも食ったし…もう人間コタツ体勢はやめてくれ。どうしても見た目に抵抗がある」
コタツ「はーい」
男「それと、その天板…ずっと背負ったまんまで重くないの?」
コタツ「自分の一部ですからね。でも、あちこちにぶつけちゃいけないから、使わない時は降ろしときましょうか」
男「まだ寝るにも早いな…どうせいいのはやってないだろうけど、TVでもつけるか」
コタツ「じゃあ…失礼して」ゴソゴソ
男「ん?」
コタツ「よいしょ」トスッ
コタツ「はい?」
男「なんで俺の膝に座る」
コタツ「…コタツですから」ポフポフ
男「そのスカートがコタツ布団で、俺の足を包んでる…と」
コタツ「はい、電源入れましょうか?」
男「……入れなくても人肌くらいは暖かいけど、じゃあ入れてみてもらおうか」
コタツ「そうこなくっちゃ」パチッ
コタツ「はい…少し待って下さいね」
ジワーッ…ホカホカ…
コタツ「だいぶ暖かくなりました」
男「…膝の上でお漏らしされた気分」
コタツ「なっ…!?」
コタツ「……何て事を訊くんですか」ポッ
男「ごめん、言わなくていいわ」
コタツ「重くはないですか?」
男「潰れそう」
コタツ「………」シクシクシク
男「嘘、冗談、小さいって言われた仕返しのつもりだった、謝るから」
コタツ「はい」
男「それって昨日『寝なきゃ家具状態に戻れない』って言ったのと矛盾してないか?」
コタツ「そんな事ありませんよ」ビクゥッ!
男「台詞と態度が一致してないぞ」
コタツ「ね…寝てても意識はあるんです、身体を休めてるだけなんですよ」アセアセ
男「ふーん…?」
コタツ「…疑ってますね」
男「あ、解る?」
コタツ「信じて下さいよぅ…」
…
男「じゃあ灯り、消すぞ」
コタツ「おやすみなさい」
男「今夜は早目に寝ろよな」
コタツ「努力しまーす」
男「…あ、だけどさ」
コタツ「はい?」
男「今度、部屋に人を呼ぶ事になると思うんだ。多分昼間なんだけど…その時は家具状態になってくれよな」
コタツ「じゃあ、やっぱり夜更かししてお昼寝できるようにしないといけませんねっ!」キラーン
男「いやいや、まだいつの事かも解らないし…」
コタツ「だったら明日かも知れないじゃないですか! これは仕方ないです、夜更かしするしかありません!」フンス
男「…まあ、好きにしろ」
…
コタツ「………」ニコニコ
男(…相変わらず嬉しそうにTV観ちゃって)
男(普通の家具状態に比べれば、利便性は劣る…)
男(でも昨日から、いつもより楽しいのは確かだよな)
男(…二人の時は、無理に元の姿に戻ってもらう必要も無いか)
男(しかし、さっきの『寝てても意識はある』は嘘だろうな…)
男(それでも家具状態の時にも周囲を見てた)
男(…という事は、嘘があるとしたら──)
………
…
…翌朝
コタツ「──てっ! 男さん、起きて下さいよっ!」
男「ん…んん…?」
コタツ「いつもより起きる時間、ずっと遅くなってますよ! なんで携帯のアラームをセットしなかったんですか!?」ユサユサ
男「…ああ、おはよ」
コタツ「いいから早く! 用意しないとっ!」
コタツ「えっ」
男「受けとかなきゃいけない講義、特に無いから休むつもりなんだ」
コタツ「なんだ…それなら昨日の内に言っといて下さいよ。明け方にうとうとしてて気付くとこんな時間だったから、びっくりしました」
男「ごめんごめん、心配してくれてありがとうな。せっかくだから起きるよ」
コタツ「はーい、今朝はちょっと冷えるからスイッチ入れときますねー」
男(…寝てる間も意識があるなら、時計見てびっくりしないよな)
男「じゃあ最後の」
コタツ「えっ」
男「…を、片付けようかな」
コタツ「意地悪…」ウルウル
男「嘘うそ、ごめんって。でも、外出って選択肢は無しなのか?」
コタツ「それってコンセント抜かなきゃいけませんし」
男「そんなに嫌なの?」
男「なるほど、屋外には魅力を感じないと」
コタツ「家具たる者、屋外で雨ざらしほど悲しい事もないですから」
男「あー、なんとなく解るかも…あれは侘しい光景だよな…」
コタツ「あ、でも最悪なのは売れ残って使われずに廃棄される事です。もう店頭では毎日ビクビクしてました」
男「そういえばお前、ホームセンターでかなり値下げされてたよな」
コタツ「言わないで下さいよ…本当に怖かったんですから」
コタツ「はい、あの時は嬉しかった……だから男さんの事は大好きです」
男「ば…ばかやろ、大好きとか言うなっ」
コタツ「私は家具ですよ?」
男「だから家具の姿してないだろ。そうでなくとも俺は女の子に免疫薄いんだよ」
コタツ「知ってます、部屋に連れてきた事ないですもんね」
男「うるせえ」
コタツ「だから私は、アナタしか知らないの…」ポッ
男「てめえ、からかうな」
コタツ「あははっ、もっと挙動不審になってくれるかと思ったのに」
コタツ「そんな事ないですってば」
男「うーん…」
コタツ「男さんに買ってもらった以上、男さんの部屋で使ってもらう事こそが私の幸せなんです」
男「…そっか、じゃあ今日は映画でも借りて来ようかな」
コタツ「はいっ」
…
…レンタル店
男(さーて、何を借りるか…)
男(とりあえず、ラブシーンがありそうなやつはパスだな)
男(…でも、割と何にでもあったりするんだよなー)
男(安心なのは…キッズ向け?)
男(CGアニメ系のやつなら、大人が観ても楽しいのあるよな)
…
コタツ「うぅ…」グスッ
《…Eve? …Eve!》
《WALL・E…!》
男(…で、『ウォーリー』にしたけど…)
コタツ「男さん…これ、ダメですよぅ」ポロポロ
男「感動した?」
コタツ「それもそうですけど、地球がゴミだらけじゃないですか…」
男「ああ、そっか」
コタツ「家具や電化製品の末路だと思うと……うぅっ」グスン
男(…人間には解らん感覚だ)
コタツ「はいっ」
男「二人で出来るのは……Wiiパーティーくらいだな」
コタツ「………」
男「ん? どした?」
コタツ「…いえ、なんでパーティーゲームなんか持ってるのかなーって」
男「……やっぱやめる」グスッ
コタツ「えっ!? 嘘っ、大丈夫! 独りでやっても面白いですよね! ねっ!」アセアセッ
男「まあ確かにこの部屋で誰かとやった事は無いんだけどさ」スイッ
コタツ「えいっ! うわっ、難しいっ!」バタバタ
男「友達の部屋でやった『ぐるぐるパズル』にハマッちゃったんだよな……っと」ヒュッ…
コタツ「ええっ!? そんなに軽い動作でいいんですか!?」
男「うん、座ったままでオッケー」
コタツ「先に言って下さいよ…すっごく疲れたじゃないですか…」
男「すまん、ジタバタ加減に軽く萌えててな」
男「対戦より一人でとことんモードの方が面白いぞ、やってみ」
コタツ「ええと…?」
男「とにかく回して四つ以上の同色パネルが繋がったら消える。あとは素早く消してコンボを途切れさせるな」
コタツ「うわっ、間に合いません! コンボとぎれるー!」ジタバタ
男「落ち着け、これはリモコン振らなくていい」
…ドーーーンッ!
コタツ「アッと言う間に終わった……」
男「面白かった?」
コタツ「まだ面白さが解りません、ただ…」
男「…ただ?」
コタツ「男さんのMii、こんなにハンサムじゃないたたたたたっ! やめて! 粗大ゴミになりますっ!」
男「粉砕して可燃ゴミにしてやんよ」グリグリ
……………
………
…
…1週間後、早朝
男「…ん」
…モゾッ
男(あれ…えらく早い時間に目が覚めちゃったな…)
《スタジオノ ミナサン オハヨウ ゴザイマース!ケサノ キオンハ キノウヨリタカク──》
男(TVの音が出てる…それで目が覚めたのか)
男(あーあ、コタツめ……家具状態にもならずに、うたた寝してんじゃねーか)
男(寝返りでヘッドホンのプラグが抜けたんだな)
男(たぶん人間の姿だと寒いだろうに…)
…バサッ
男(…コタツが寒くないように毛布をかけてやるってのも、変な話だな)
男(眠る時は家具にも人型の状態にもなれる…か、それは本当みたいだけど)
男(じゃあ、家具状態の時には寝てても周囲が見えてて、人型だと全くの睡眠状態?)
男(やっぱりそんな変な話、無いだろ)
男(眠らなきゃ家具型になれないって部分は、きっと嘘だな)
男(つまり多分、今までずっと家具の状態でいた時も、眠ったり目覚めたりを繰り返してたんだ)
男(店頭でも、この部屋に置かれてる時も、押入れにしまわれてる時も)
男(さぞ退屈だったろうけど、外出に魅力を感じないとか…そういう家具の感性からすれば平気なのかな)
男(でも、明らかに夜更かしが好きだったりゲームや映画に興じたり)
男(人型を現してからの毎日が、楽しそうなんだよな)
男(…女さんを部屋に呼ぶ時……もう明日の事か)
男(いや、それより後だってそうだ)
男(いつかはまた、ずっと家具の状態でいてもらわなきゃいけなくなる)
『──男さんの部屋で使ってもらう事こそが私の幸せなんです』
男(…そうは言ってたけど、本当にコイツはそれでいいのかな)
男(ある時を境に『喋るな』『動くな』『姿を変えるな』)
男(そう告げなきゃいけない日は、いつか来る……そしてその時)
『持ち主の意思によって決定された状態を変える事はできないんです』
男(きっとコイツは、笑顔で受け入れるんだろう──)
…
…翌日
女「お邪魔しまーす」
男「どうぞー、自慢できるような部屋じゃないけど」
女「うん、でも綺麗に片付いてるから恥ずかしくもないでしょ」
男「がんばって片付けたんだよ、女さんが来るから」
女「あははっ、それは言わない方がよかったんじゃない?」
男「偽っても仕方ないしー、普段は散らかしてるしー」
女「あっ、でもひとつだけ指摘事項みっけ」
男「えっ」
男「…ああ、いいんだよ。俺、コタツ好きなんだ」
女「じゃあ年中出しっぱなしなの?」
男「うん」
女「ふーん……まあいっか、布団を取れば卓袱台だもんね」
男「まだ布団も取らなくても、OFFにさえしてれば平気だしな」
女「あ、読めた」
男「何が?」
女「横着して、コタツで寝る癖あるでしょ!」
男「はは、バレたか」
女「でも解る、あれ心地いいよねー」
…
女「──このスライドの時、グラフはいると思うんだよ」
男「うん、メモしとく」
女「じゃあ文章は私、考えるから。男くんはそういうビジュアル的な部分を任せてもいい?」
男「了解、お互いメールとかで原稿を交換しながらやろう」
女「はぁ…ようやく方向性と骨組みはできたねー」
男「本当はまだ骨組みだけってのじゃ、いけないくらいのタイミングだけどね」
女「人の事は言えないくせにー」
男「解ってるって、責めてるんじゃないよ」
女「ぺっこぺこです」
男「夕食、どっか行く?」
女「うーん……実は、ですね」
男「?」
女「カレーでも作ろうと思って、ちょっとした材料を持ってきてたりします」
男「まじか、やばい嬉しい」
女「でももし作らない事になったらいけないと思って、お肉とかの生鮮ものは持ってきてないの」
女「うん、買いに行ってくるよ。来るとき見たけど、近くにスーパーあったよね」
男「ああ、歩くとまあまあ遠いけど。荷物持ちに行こうか」
女「ううん、そんなにたくさん買うわけじゃないから平気。それよりご飯はあるのかな?」
男「……炊かなきゃ無い」
女「じゃあ、そっちを頼みます」
男「わかった、女さん何合くらい食べる?」
女「そんなに何合も食べないよ、失礼だなぁ」
男「はは…冗談、三合くらい炊いとく」
…ガチャッ
女「先にお菓子のつまみ食いとかしちゃダメだよ?」
男「しないって、女さんこそ試食コーナーの誘惑に負けないようにね」
女「うっ、なぜ私が試食コーナー好きなのを知ってますか」
男「女友さんから色々聞いてまーす」
女「やめてー! 思い出さなくていいからっ!」
男「あはは……そろそろ暗くなり始めてるから、気をつけてね」
女「うん、最近物騒だもんね」
男「そうだよ、こないだも近くで空き巣と放火があったって」
女「怖いねー」
女「ううん、平気。人通りの多いとこ通るから」
男「なんか心配だな」
女「スーパーに行くのに心配とか、子供じゃないんだから」
男「そっか…まあ、そうだね」
女「でも…嬉しいよ?」
男「ん?」
女「玄関を出る時に、そんな風に心配してくれるのって…なんかいいよね」
女「うーん…それは違うよ、男くん」
男「………」
女「今、言うべき台詞としてはちょっと相応しくない…かな?」
男「…解ってるよ」
女「何を?」
男「さっきのなし、照れ隠しだったよ。……女さんだから、心配したんだ」
男「やっと?」
女「待ってました! …だよ、その言葉」
男「…お待たせしました」
女「やばい、思ってたより恥ずかしい。もう行ってきます、すぐに帰るからっ」
男「そんなにすぐにご飯炊けないよ」
女「もう照れ隠しはいいってば」
男「…そうだな。じゃあ、早く帰ってきて下さい」
女「了解です!」
…
男「おい」
コタツ「………」
男「家具状態でもどうせ聞こえてんだろ」
コタツ「………」
男「…っていうか、その状態なら寝てても聞こえるとか見えるとか、嘘だよな。起きてんだろ?」
スウウウゥゥッ……
コタツ「……バレてたんですか」
男「おうよ、けっこう前からな」
コタツ「はーい」
男「今日は退屈させたな」
コタツ「何言ってるんですか、ちゃんと天板使われてるのに退屈なわけありません」
男「そういうもんか」
コタツ「それに男さんの緊張した喋り方が面白くて面白くて…」プププッ
男「やっぱそろそろコタツも季節外れかなー」
コタツ「脅してもダメですよ。『俺、コタツ好きなんだ』…でしょ?」ニヤニヤ
男「うわ、ムカつく」
男「今まで彼女いた事無いなんて言ってないぞ」
コタツ「あれ? てっきりそうかと…いた事あったんですか?」
男「……無いけどさ」
コタツ「これでWiiパーティーの相手ができましたねー」
男「お前じゃ相手にならなかったからな」
コタツ「失礼なっ! ぐるぐるパズル1万点超えるようになったんですよ!?」
男「3万点超えてから言いな。俺、ちょっと炊飯器セットしてくるわ」
コタツ「ちぇっ、じゃあちょっとだけゲームしてても──」
──ガチャッ
女「ごめーん、お財布大きい方のバッグに入ってたよー」
女「あはは…時間ロスしちゃった、すぐに行って…くる…か……ら…」
《3…2…1…スタート!チャチャラチャーラーラ、チャチャラチャーララーンラララ…》
女「………」
コタツ「…はわ…はわわ…」ガクブル
男「……最悪だ」
女「えっと……うん、帰るね」
男「ちょっと待って! 女さん、コイツは違う! コタツなんだ!」
女「…コイツとコタツを掛けた感じ? あはは、面白ーい。せめて妹だとか、まともな言い訳は出てこないわけ?」
男「そうじゃない!」
女「何? なんでこのタイミングで部屋で寛いでるわけ? まさか押入れにでも隠れてたの? 本当、さっきの玄関でのやりとり、いいお笑い種ね」ガチャッ…
コタツ「あの、女さん! 本当に違いますからっ!」
女「そう、とにかく帰るから。どうぞコタツさんとぬくぬくしてたら!? さよならっ!」バタンッ!
カン、カン、カン…
女「………」グスッ
女(何よ…それ…)
女(彼女いるなんて聞いてなかった)
女(……本当にそうかは解らないけど、でも──)
──バッ!
女「きゃっ…!?」
タタタタタッ…
女(びっくりした…何、今の人…?)
女(もうこんなに暖かいのに、ニット帽なんか被って)
女(男さんのアパートの裏から出て来たけど、すごく慌ててた──)
…
男「………」
コタツ「……ごめんなさい」
男「………」
コタツ「あの…家具形態になる時は、四つん這いじゃないとひっくり返った状態になってしまうからっ」
男「………」
コタツ「それで、咄嗟には変われなくて…その……ごめんなさい…」グスッ
男「お前のせいじゃないよ…俺が油断してたんだ」
コタツ「でもっ…」
男「告白みたいなシーン、お前に見られたと思ったから…こっ恥ずかしくて話し掛けちまった。そうじゃなきゃお前は家具のままだったろ」
コタツ「……うぅ…」
コタツ「だったら早い方がいいです! もし今連れ戻してくれたら、目の前で家具の姿になってみせますから…!」
男「……そうか。素直に戻ってくれるかは解らないけど、それが一番いいのかもしれないな…」
コタツ「そうですよ! だから、追いかけて下さいっ!」
男「……でも」
コタツ「どうしたんですか! 早くっ!」
男「女さんにお前の正体を見せて、その後はどうなる」
男「女さんは良い人だけど…もしお前の噂が広まったら…」
コタツ「その時は私、家具のままになりますから! 誰が見に来たって二度と人型にならなければ、すぐに噂なんか消えますよ!」
男「そんな、お前が二度と人型になれなくなるなんて」
コタツ「私は家具ですっ! 電化製品ですっ!」
男「もう、そうとは思えないよ! どこの世界にこんなに一緒にいて楽しい電化製品がいるんだよ!」
コタツ「!!」
コタツ「男さん…」
男「家具の姿よりずっと不便で! でも、俺は…!」
コタツ「………」ポロッ
男「俺は…そんな売れ残りの安物コタツを……気に入ってるんだよ…」
コタツ「……っ…」ボロボロッ
男「………」
コタツ「でもね…私は電化製品なんです。電化製品は持ち主に豊かで幸せな暮らしをしてもらうためにあるんです」
男「…お前は充分、俺を幸せにしてくれてるよ」
コタツ「でも、家具なんです」
男「………」
コタツ「家具にできるのは、持ち主の幸せな『暮らし』を叶える事。でも女さんは、貴方の人生そのものに幸せを与えてくれるはずなんです」
男「………」
コタツ「だから、行って下さい」
コタツ「大丈夫、女さんはきっと私の事を言いふらしたりしません。そんな人とは思えませんでした、違いますか…?」
男「………」
コタツ「男さん」
男「…解った、行ってくる」
コタツ「はいっ」ニコッ
…
カン、カン、カンッ…!
タタタッ…!
大家「あら、男くん今からお出かけ?」
男「大家さん! さっき、俺の部屋から出てきた女の人…どっちに行ったか知りませんか!?」
大家「ええ…? いや、私もさっき出てきたばかりだからねぇ…」
男「そうですか…」
男(…女さんはバスで帰る。素直にバス停に向かうなら、こっちだ)
男(くそっ…解らないけど…可能性の濃い方に賭けるしか──)
…
コタツ「ごめんなさい…男さん」
コタツ(……自分が原因で持ち主が困るなんて)
コタツ(家電製品失格ですよね…)
コタツ(本当は二手に別れて女さんを探せたらいいのに)
コタツ(…それさえもできない)
コタツ「……?」
コタツ(なんだろう…アパートの裏が、明るい──)
………
…
女「………」トボトボ
女(…追いかけて来る気がして、わざと別の方向に来ちゃった)
女(こっちからだと、バス停より駅に行った方が早いかな…)
『…女さんだから、心配したんだ』
女(…どの口が言ったのよ)
女(でも…もしあの娘が本当に良い仲で、部屋の中かどこかに隠れてたんだとしたら)
女(そして私がいない…隙あらば出てくるように決めてたとしたら)
『──やっぱりついていこうか?』
女(…あんな事、言わない気がする)
女(…希望的観測かな)
女(でも私、あの時カッとなって…まともに説明する間も与えなかった)
女(もし本当に勘違いだったら?)
女(今引き返して話を聞けば、ごめんなさいで済む話だったら…?)
…ピタッ
女(だけど…やっぱり私が先走って、それをからかわれてただけだったら…)
女「………」ギュッ…
『──本当、さっきの玄関でのやりとり、いいお笑い種ね』
『どうぞコタツさんとぬくぬくしてたら!? さよならっ!』
女(…だめだよ、やっぱり今日はもう顔なんか──)
女(…なんだろ、消防車?)
女(そういえばこの前、空き巣や放火があったとか言ってたなぁ…)
女(……あれ?)ハッ
女(さっきの…アパートから走って出てきた人、本当に何してたんだろう…?)
女(……まさか…まさか、ね)
女「………」…クルッ
女(万一って考えたら、心配だから)
女(そう…仕方がないんだよ。これで男くんにもしもの事があったら、後味悪すぎるもん)
女(別に、仲直りしたいわけじゃないけど──)
…
女(ええっと…確か、ここを左だったよね)
女(やだ…またサイレン、近くなってる)
女(ここを曲がれば、アパートが見えるはず──)
「──ショウボウシャ ハ マダコナイノカ!」
「コノアタリ ミチガセマイカラ…」
「コノママジャ ゼンショウ スルゾッ!」
女「嘘…! 本当にアパートが燃えてる…!?」ダッ…
女(…嫌だ…! 男くん…逃げてるよね…!?)
近所の人「さっきからサイレンの音がするだけじゃないか…なんて事だ」
女「あのっ…! 中に人はっ!?」ハアハア…
大家「知り合いが入居してたのかい? 大丈夫、一階の人はみんな気付いて出てきてるし、二階の人もさっき出掛けてるのを見たから…」
女「二階の人って、『男』って人ですか…!?」
大家「あら、貴女…男くんの知り合いなの? そうよ、彼がさっき出掛けるのを見たの」
女「ああ…良かった……」ホッ…
女「!!」
大家「もしかして貴女の事だったのかしらね…」
女「あの、その時…男くんは一人だったんですか…?」
大家「そうよ?」
女「まさか…その後、男くん部屋からは誰か出てきましたか?」
大家「いいえ…? あの子、独り暮らしでしょう」
女(……じゃあ、もしかして…!)
大家「…どうしたんだい?」
女「…中に、人がいるかもしれない──!」
女「解らないけど…さっきまではいたんです!」
近所の人「なんてこった、まだ二階の火の手は弱いが…しかし…!」
女「………」グッ
大家「消防はまだ来ないの!?」
近所の人「今、遠くからホースを繋ごうとしてるみたいだ、もう少しかかるだろうな…くそっ」
女(……怖い…けど──!)
ダッ…!
大家「ちょっと!? あんた…!」
近所の人「無茶だ! 戻れ…!」
女(──男くんの悲しい顔なんか…見たくないっ!)
…
男「はぁ…」トボトボ…
男(結局、バス停まで行っても見つけられなかったな…)
男(さっきから消防車のサイレンが煩いな…また放火でもあったのか)
男(そういえば、なんかあっちの空が明るいような)
男「あれ…?」
男(携帯…着信があったのか、気付かなかった)
男(大家さん…珍しいな。こんなに何回もどうしたんだ?)
男「……まさかな」
男(でも、なんか胸騒ぎがするような──)
…
女(──確かに、二階はまだ火が弱い…これなら…!)
女(この部屋…だったよね)
…ドンドンッ!
女「いるのっ!? 返事してっ!」
女(いないのかな……まだこの火の勢いなら、逃げられるはずだもんね…)
女(でも、煙に巻かれてたりしたら…)
…ガチャッ
女(カギ…あいてる…! まさか、やっぱり中に──)
女「げほっ…誰かいるのっ!?」
コタツ「…女さん…! どうしてっ!?」
女「やっぱり…! 『どうして』はこっちの台詞よっ!」ゲホゲホ
コタツ「だめっ! 入ってきたら煙が…!」
女「ならどうして貴女は逃げないのっ! もういい、入るっ!」
コタツ「だめって言ったのに…!」
女「いいから! 早く出るわよ!」ガシッ
コタツ「あの…それが、コンセントが…!」
女「コンセント…?」
コタツ「私は本当にコタツだから…自分でコンセントを抜く事はできないんです…」
女「何をふざけた事……」ハッ
女(この娘のスカート…こたつ布団と同じ模様……その下から、スイッチのついたコード…?)
コタツ「それに…コンセントを抜くと──」
女「意味解んないけど…コンセント抜いて逃げるしかないでしょ!」
コタツ「でも…!」
女「いいからっ! 抜くわよ!」
──プスッ!
女「……えっ…?」
女(…いない……コードの先にはひっくり返ったコタツ…?)
女(まさか…本当に…)
──バリィンッ!ゴオォッ…
女「!!」
女(いけない…! 窓が割れて火が──)
………
…
男「嘘だろ…おい…」
男「二階まで火の海って…それを今、消火中って…!」
男「嘘だろっ! あいつは自分でコンセント抜けないんだぞっ…!」
大家「あっ…! 男くん!?」
男「くそっ…!」ダッ…!
大家「男くん!? 何を…やめなさいっ!」
近所の人「ばかもん! 死ぬつもりかっ!」ガバッ!
男「離してくれっ! コタツが…!」
大家「コタツって、何を言ってるの!」
男「くそぉっ! 離せよっ…!」
男「女さん…!?」
女「あの、私…大丈夫なんだけど一応、救急車に乗らなきゃいけないみたいだから…」
男「ごめん! 後にしてくれ…! まだ部屋にコタツがっ!」
女「あ、なんかそれムカつく」イラッ
男「そんな事言ってる場合じゃ…!」
女「ふーん…結局、救急車に乗る私よりそこに置いといたコタツさんの方が大事なんだ」
男「そんなの比べてるわけ…じゃ……そこに置いてる?」
女「あーあ、私がどれだけ危ない目にあってまでコタツさんを助けに行ったと思ってんのよ?」
男「助けた…女さんが…? じゃあ…」
女「消防士さんが間に合わなかったら死んでたんだからねっ、私も──」
男「女さん…!」
女「──そこの塀のところにある『彼女』も」
………
…
…二週間後
女「前の部屋よりは綺麗だね」
男「でも隣の部屋の音、すっごい聞こえるんだ…やっぱ月極めアパートなんてそんなもんなのかな」
女「贅沢言わないの、次の部屋が見つかるまででしょ?」
男「まあね…」
女「しかし部屋の中、備え付けの物以外は空っぽだねー」
男「持ち物ほとんど燃えちゃったからな」
女「何にも無い部屋の真ん中に…」
男「ぽつーんとコタツ、なんか変な感じ」
男「……まだ、何にも」
女「そっか」
男「でも、きっとその内またヒョコッと出てくると思うんだ」
女「本当…そうだったらいいね」
男「大丈夫だよ」
女「…うん」
女「もう『ありがとう』は充分聞きましたー」
男「…ありがとう」
女「天板だけ、変わっちゃったね」
男「でもサイズはピッタリだよ」
女「ふふっ…オトコの人の部屋にしては、薄ピンクでちょっと可愛いけど」
男「うん」
女「気に入ってくれるよ、きっと」
女「そうだったよ?」
男「つまりたぶん、電源が入ってなきゃ人型にはなれなかったんだろうと思うんだ」
女「うーん…」
男「外出に興味が無いのは本当かもしれないけど、コンセントを抜くのを嫌がったのはそのせいもあるんじゃないかな」
女「でも、今はコンセント刺してるんだよね…」
男「そうだけど、きっと充電中なんだよ」
女「充電式のコタツかぁ」
男「俺さ…コタツに待機電力があるのかは知らないけど、前の冬は一人暮らし始めたばっかでマメにコンセント抜いてたんだ」
女「…この冬は?」
男「横着してずっと刺しっぱなし。だからアイツ、姿を現せたんじゃないかな──」
《──バレましたか、やりますね》
.
女「男くん…今の聞こえた…?」
《まだ姿は変えられないけど、一週間経ってようやく声だけ伝えられるようになりましたよー》
男「コタツなのか…!?」
《それ以外だったらこの月極めアパートはお化け屋敷ですね》
女「似たようなものじゃないかな…」
《あっ、女さんひどいです》
《まだもう少しかかりますけど、また役立たず形態になりますよー》
男「……はあ…安心したら、なんか気が抜けたよ」
女「良かった…良かったね…!」
男「うん……さっきは当てずっぽうで言ってたけど、本当はもう無理なんじゃないかと思ってた」
《あらあら…女さんがいるのに、そんなに私に会いたかったんですか? 女さん、男さんは私に首ったけかもです》
女「家電に負ける気はありませーん」
男「持ち主の生活を豊かにする事が幸せだ…って?」
《そういう事です。ちょっと小さめだけど、二人で使って下さいね?》
男「じゃあ、お前がまた姿を現すまでに買っといてやるよ」
《……何をです?》
女「なるほど、三本目だね?」
男「正解、今度は三人でパーティーゲームするからな──」
《──はいっ!》
【おしまい】
ハッピーエンド無茶苦茶良かった!!
コタツも女も不幸にならなくて良かった
コタツが息を吹き返して良かった
3人ともお幸せに!!
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